ここでは職場・仕事における「先輩」と、学校・部活などにおける「先輩」をどう英語で伝えるのかといった問題を考えています。
日本語の「先輩」を英語でいう必要がある時に「senior(シニア)」を使うと、seniorには「年寄りの人々、高齢者」といったいくつかの意味があるため、文脈を作らないと伝わらない可能性があります。
それとは別に英語には「先輩」にあたる言葉がない原因の1つとして、年齢による差が文化的に日本ほど重要視されていない点があります。
これは日本が兄・弟を明確にわけるのに比べて、英語ではbrotherになってしまう点にも通じます。このような文化的な差をどう乗り越えるのかの問題もあります。
答えは1つではありませんが参考にしてください。
senior(シニア)の意味
一般的にseniorといった場合は、特にはっきりした文脈がなければ英語のネイティブスピーカーには「年寄りの人々、高齢者」を指していると伝わる可能性が高いです。
カタカナでも使われる「シニアゴルフ」のような使い方です。
My mother belongs to a seniors’ badminton club.
母親はシニアのバドミントンクラブに所属している。
The shopping mall is usually full of seniors early in the morning.
朝の早い時間は、ショッピングモールはたいていお年寄りでいっぱいだ。
またアメリカ英語を中心にseniorといえば学校での特定の学年を指すことになります。3年制の高校などの3年生がそれにあたるため、学校での話題などの文脈でseniorを使うと特定の学年の生徒を連想させます。
The senior kids bullied him.
(意味が違って伝わる可能性がある)
senior(シニア)はこういったいくつかの意味が交じり合っている事情から、日本人が辞書的な意味で文脈を作らずにそのまま英語で使うとネイティブスピーカーを混乱させることが多くなるだろうという意見です。
確かに「上位の、上級、年上の」といった意味で使われることがあります。これはよく役職などで「シニアディレクター」や「上級副社長」のような英語圏独特の組織構造のポジションで使われます。
He is a senior director in this company.
彼はこの会社のシニア・ディレクターだ。
例えば以下のような文章は文脈があれば「彼は私の(仕事の)先輩だ」と伝わる可能性がありますが、学校や部活の先輩にはあまり使わない表現です。
He is my senior.
(ある程度、文脈を作る必要がある)
アメリカ人のスコットに聞いてみると会社内での関係で、自分とまったく同じルートで出世や職位、経験などを積む人ならばsenior / juniorを使う可能性はあるかもしれないといった意見でした。
例えば経理の新入社員なら経理課の係長になり部長になりといった同じルートをとる先輩という意味でのsenior / juniorです。営業マンと開発部門だと職種も違うので、進むルートも違います。
こういったケースでsenior / juniorを持ち込むと少し混乱する要素になります。
日本語の「先輩」を英語でどう伝えるか?
英語圏には「先輩」にあたる言葉がありません。これは日本社会よりも年齢差を重視しない傾向があり、sisterやbrotherも特に必要がなけば「兄弟、姉妹」として兄・弟、姉・妹の年齢差や上下関係を考慮しないことにも通じます。
スティーブも日本人に最もよく受けた質問は「How old are you?」だと思うといっていました。日本人の根底に染み付いている「年齢」に対してのとらえ方や考え方は、おそらく中国の儒教などからの影響だと思いますが、英語圏とは深い部分で異なっているように思います。
あえて「年上である」「年下である」と伝える必要がわざわざない、と考えるのが近いです。
会社で一緒に働く関係であればそれは同僚や会社仲間であり「colleague」や「co-worker」があります。
役職に明らかに差があれば、それはその役職の人なのでmanager、director、CEO、あるいはbossと呼べば済む話だといえます。
社会全体として「年齢が高いこと」や「先に会社・学校に入ったこと」が暗にポジションが高くなるような社会通念が日本よりも希薄です。この意味で英語で先輩を伝える場合には考え方をリセットする必要があるかもしれません。
例えば「会社に嫌いな先輩がいる」を伝えたい場合に「会社に嫌いな同僚がいる」で十分に伝わる可能性があるのかを検討したり、話している相手に「年上である、学年が上である」といった情報や先輩の概念をわざわざ伝える必要が本当にあるのかどうかといったことを考えてもいいかもしれません。
それでもどうしても「先輩」の意味合いを英語で伝える必要に迫られるケースもあります。これは「職場における先輩」と「学校の先輩」の2つをわけて考えてみます。
唯一無二の正解というわけではないので、考え方の参考にしてください。
学校・部活の先輩
前提として先に述べたように学校では「senior」を使うのは混乱するので避けたほうが無難です。また単にstudentやfriendで意味が十分に伝わるのかどうかも検討したいです。
そのうえで「older(年上の)」をつけるのが最も便利で、概念としても近いと思います。
The older kids bullied him.
年上の子供たちが彼をいじめた。
He’s an older student.
彼は年上の生徒だ。
もしくは「学年が上(higher grade)」と伝える方法が考えられます。
He’s in a higher grade.
彼は上の学年だ。
こういった言い方をすれば「先輩」に近い概念を伝えることができます。
部活の先輩ならば基本的には「teammate(チームメイト)」などが近い表現です。そもそも「部活」が日本的な制度であり、そこに暗に根付いている上下関係も日本的です。
何度も確認したのですが、自然な会話を求めるならば、やはり英語圏の日常会話ならば年上か年下かは伝える必要がない情報という結論になります。
Tom is my teammate.
トムは私のチームメイトだ。
こういったシンプルな表現で十分だという話です。もう少し踏み込むと以下の例文のようになります。
Tom is a friend from my (school) tennis club.
トムは学校のテニスクラブの友達だ。
ここから先に細かな人間関係を伝える必要があるならば、英文を作って状況を説明する方法があります。
英語圏にも部活などのいじめや余興の強要の文化がないわけではなく、これは「hazing」としてたびたび社会問題になっています。
会社・職場の先輩
職場での先輩については同僚や仕事仲間を意味する「colleague」や「co-worker」で十分に伝わるのではないかという部分の検討がまずあります。
また役職がついているならば役職をいえば済む話です。「先輩」はわりと広範囲を含む言葉なので、より具体的に表せる言葉があればそちらを選びます。
その上で、経験があるやキャリアが長いといった表現で表すことが可能だと思います。ここでのcareerは職歴です。
He has a long career.
彼は長いキャリアがあります。
以下のように伝えると限りなく先輩の概念に近くなります。
He’s younger than me but he has a longer career as a accountant.
彼は私より若い。しかし、彼は私よりも長い会計士としてのキャリアがある。
He’s younger than me but he’s worked here longer.
彼は私より若い。しかし、ここで私より長く働いている。
しかし「長く働いていること」がイコールで偉いわけではないので、このあたりは「先輩」という日本語に文化の差が染みついている感じはあります。
「長く働いている、経験がある → (役職があがる) → 自分より立場が上になる」の「(役職があがる)」が抜け落ちる感じに文化の差があるのかもしれません。
他にもhigher-upで自分より立場が上の人全員を指すことができます。これだと役職関係なく自分の気持ちにとって「偉いと思う人」全般を指せます。
I don’t like my higher-ups.
お偉いさん方が好きじゃない。
同様の意味を探せば日本語の先輩はmentorなどが近いかもしれません。信頼のおける相談相手、相談者といった意味です。
起業の世界でも経験や知見のあるすでに成功した人が後進のアドバイスをしたりする文化がありますが、これらをメンターと呼んだりします。
I have a mentor who is helping me become a great painter.
偉大な画家になるのを助けてくれるメンターがいる。
先生ほど利害関係や上からの指導がなく、あくまでボランティア的にアドバイスをする経験がより豊かな人という意味では先輩に近い存在です。
seniorを使う場合は確かに「年上の」といった意味もあるので、年齢などを伴うと誤解が少なくなります。
He is four years my senior.
= He is four years older than me.
彼は4歳、年上だ。
この場合も「人間として4歳年上だ」と「(職務などが)4年わたしよりもある」の両方の解釈があります。単純に年上ならば普通にolderで十分に伝わります。
senpai(スラング)
一部でsenpaiという言葉は英語圏でも知られています。世界的に有名なゲーム実況者で、6000万人を超えるチャンネル登録者がいるYouTuberのPewdiepie (ピューディーパイ)が流行らせたのだと思います。
「Notice me senpai!(先輩、気づいて!)」「I hope Senpai will notice me.(先輩が気づいてくれたらいいな!)」と叫びながら、ネット動画などでネタをやっていました。
曲解された少女マンガ的な世界観の、自分のことに気づいてくれない先輩像です。どこまで一般的なのかはよくわかりません。
おそらくアニメなどで広がってしまった日本独自の言葉で、中には「senpai」を「気づいてくれない人」の意味だと思っている人もいると思います。