2003年頃に世界中のマクドナルドで「i’m lovin’ it」がスローガンとして使われました。文字を正しく書くと「I’m loving it」ぐらいになります。
英語を少し勉強したことがある人ならば、これが英語の文法・英語表現としておかしい感じがして、違和感があると思います。
この点について改めてネイティブスピーカーに意見を聞いてみました。今となってはマクドナルドが有名にしてしまった感じもありますね。
loveは進行形にならない
一般的なルールとして何かの状態を表す動詞(love、like、know、wantなど)はbe動詞 + 動詞の-ingにはならないとされています。
これはネイティブスピーカーに確認しても「伝統的な英語のルールでは状態動詞(Stative verb)は進行形にしない」という認識でした。学校で習うというよりも、自然に身に着けている感覚で特にこれについて習ったり話し合ったりはしないそうです。
ただ崩れた言い方や、スラングぎみの表現としては確かにbe lovingのような表現は使われています。特に口語でよく使われるのがlikeを進行形にしたI’m liking it.のような表現です。
伝統的なルールでは正しくはない英語と認識しつつも、スティーブもカールもたまに使ってると思うと言っていました。同時に試験や学校のレポート、フォーマルな文章では避けたほうが無難だといった意見でした。この意味では私たちが習った状態動詞は進行形にならないというルールは間違っていません。
I’m liking it.
特にスティーブがこの崩れた表現の中でも、最もよく使われる代表的な存在が「I’m liking it.」といったlikeの進行形だと言っています。他の表現についてはこのlikeの進行形のバリエーションみたいなものだという意見です。
I’m liking this new shirt of yours.
私はあなたの新しいシャツが好きだよ。
進行形にする理由は「今まさに好きだ」と伝えるためです。I’m loving itもまさに「今、大好きだよ」と伝えています。
裏を返せば「今、まさに好きだ」と伝えるかわりに「時間が経過すると変わっているかもしれない」の意味も必然的に含まれてきます。
カールにいわせるとマクドナルドの「I’m loving it」は今まさに大好きなのはわかるけれど、じゃあ明日になったら嫌いになってるかもしれないの? と皮肉を言っていました。スティーブはこの意見については「さすがにそれは深読みしすぎ」と言っています。
しかしながら、現在進行形が持つ「今はそうだけど、時間が経過するとどうなっているかわからない」という感覚は次の婉曲表現につながります。
I’m not loving it.
I’m loving it.はマクドナルドで有名になりましたが否定文の「I’m not loving it.」も崩れた英語ではありますが、婉曲で相手を否定する時に使えます。
I’m not loving your proposal for a four-day work week.
週4日労働にするというあなたの提案は(今のところ)好きになれない。
この場合は状態動詞のloveを進行形で使うのは崩れた形ですが、先に説明したように「今はそうではない(ひょっとしたら変化するかも)」という含みをもたすことができます。
I don’t like your proposal for a four-day work week.
週4日労働にするというあなたの提案は好きではない。
このように書くと率直に伝わってしまいます。それをあえて状態動詞を進行形にすることで、今のところは好きじゃない、気持ちは変わるかもしれない、とやんわりと伝えています。
しかし、これはbe not lovingがよく使われますが、be not likingはあまり一般的ではなくなります。
マクドナルドのi’m lovin’ it
これは普通に書く、伝統的な英語のルールに従って書くならば「I love it」となります。これで意味としては伝わります。「愛している」と訳すと少し大げさなので「大好き」ぐらいの意味です。
itが何を指すのかは曖昧ですが、おそらくマクドナルドの商品やマクドナルドで食事をする体験そのものだと思います。
崩れた表現ではあるものの、崩れているゆえに注目を集める要素があります。先頭のiが小文字になっている点なども含めて「それはおかしい」と指摘する人も、このブログも含めてけっこういたと思います。
そういった点も含めて織り込み済みのキャッチフレーズだといえます。
日本では糸井重里さんなどがこんな感じの「文字にすると少し崩れた日本語」それでいて「みんな口では言っている言葉」を広告のキャッチフレーズに使っていました。
崩れているけれどよく使い、世界中のみんなが理解できる基本単語のみで構成されている、「I love it」にはない雰囲気を持ったユニークなキャッチフレーズという観点ではすばらしい作品だといえます。