今回とりあげる単語は「hail」です。いくつか意味があり日常で使うのはタクシーを呼び止めるときと、天候としての「雹(ひょう)」ぐらいです。
他にもまれに「~出身」の意味や、スポーツ系のスラングとしても登場します。それ以外にも王に対する敬意を表す言葉として、中世などを舞台にした映画などでは見かけることがあるかもしれません。
それぞれけっこうバラバラな意味なので1つ1つ順番に書いていきます。
hail a taxi(タクシーを拾う)
日常会話で動詞として使うことがあるならば「タクシーを拾う」といったかなり限定的な意味になります。taxiの部分はcabだったりタクシーを表す言葉です。
発音は【héil】なので「ヘイル」です。
手をあげてタクシーを呼びとめる動作を指しており、単純に止まっているタクシーに乗るのはtakeで表現します。
She went out onto the street and hailed a cab.
彼女は道路に出て、タクシーを呼び止めた。
Can you run ahead and hail a taxi?
先に走って、タクシーを呼び止めてくれる?
アプリや電話で配車の手配をする場合にはsummonなどを使うこともできます。タクシー以外にはflag downのような表現もあります。
霰(あられ)・雹(ひょう)
さらに日常会話の範囲内で見かけるhailは名詞で、天候としての雹や霰のことです。雨が凍って氷の塊が降ってくる現象ですね。
My car was damaged in a hailstorm.
雹の嵐で私の車が傷ついた。
The hail was the size of oranges.
雹はオレンジぐらいのサイズだった。
英語ではよく「rain or shine(晴雨にかかわらず、何があっても)」と言われますが、オーストラリアではこれにhailが入り込む表現も使われます。一種のオーストラリアのスラングです。
The tour will go ahead rain, hail or shine.
豪:ツアーはいかなる天気でも続行されるだろう。
The tour will go ahead rain or shine.
(オーストラリア以外の国)
これは特にオーストラリアでは雹が多いからだそうです。意味としては一緒です。
基本的に「rain or shine」は天候に対して「雨でも晴れでも、どんな天候でも」の意味ですが、ここから比喩的に「いかなる時も」といった意味でも使われます。
hail from(~出身である)
hail fromの形で「~出身」としても使われることがあります。これは会話表現ではあまり見かけません。
Most students hail from America, but there are a few from abroad too.
ほとんどの生徒はアメリカ出身だが、何人か外国からの生徒もいる。
hail fromが「~出身」ならば日常会話でも使えるのかカナダ人のスティーブに聞いてみましたが、使っても問題はありませんがあまり使いません。
A: Tell me a bit about yourself.
あなたのことについて少し教えて。
B: I hail from Osaka.
私は大阪出身です。
このような会話は間違いではありませんが、言葉の響きがファンシーで日常会話としては大袈裟すぎるそうです。基本的な会話なのに、わざわざこう答える理由もありません。
Where are you from? で質問されたらI am from Osaka.のように似た形で答えるのが一般的です。
上の質問のように「あなたについて教えて」と自由に表現可能な形で質問されたら、まだhail fromで答えられる余地があるといえます。
Hail to the king!
hailは古風な響きのある言葉で王様などを歓迎する、迎え入れるときなどに使われます。万歳といった感嘆の言葉でもあります。
They hailed the new king as he entered the throne room.
彼が王座の間に入ると人々は新しい王を歓呼して迎えた。
They hailed the new king.
彼らは新しい王を歓迎した。
Hail to the king.
国王万歳!
All hail!
全員、王に敬礼!
これはナチスの「ハイル・ヒットラー(ヒットラー万歳)」と語源が同じです。王様などが現れたときに掛け声がかかったりもします。
ジョジョの奇妙な冒険の第3部に登場するスタンド「ジャッジメント(本体はカメオ)」が「Hail to you(Hail 2U)」といっています。
漫画では「君に幸あれ」と意訳されていますが、意味合いとしては「あなたに万歳!」などと一緒で、喜びや繁栄を表す感嘆の言葉だといえます。ただ王様のような存在につかうケースはあっても、「あなた(YOU)」に対して使うのはネイティブスピーカーも聞いたことがないといっています。
そもそもこの使い方でのhailそのものがそんなに見かける単語ではありません。
タクシーを呼ぶのになぜhailを使うのかを考えていると、あのタクシーを呼ぶポーズが敬礼に似ているからだと予想したんですが、調べてみたところはっきりしませんでした。
褒める、称賛する
また現代の英語では「褒める、称賛する」の意味で使われることがあります。
The discovery was hailed as the biggest medical breakthrough of the century.
その発見は世紀最大の医療の飛躍的進歩として称賛された。
He was hailed as this generation’s Marlon Brando.
彼はこの世代のマーロン・ブランドとして称賛された。
マーロン・ブランドは演技の世界に革命を起こしたと言われ、「20世紀最高の俳優」と評されるアメリカの俳優です。映画『ゴッドファーザー』でドン・ヴィトー・コルレオーネを演じました。
Hail Mary
Hail MaryのMaryは聖母マリアのことで、天使祝詞、アヴェ・マリアともいわれる、キリスト教で祈りの際に読まれる文章です。
Hail Maryが英語で、Ave Maria(アヴェ・マリア)がラテン語ですが、翻訳なので内容は同じです。
懺悔の時などに読まれたりします。以下のようなシチュエーションです。
Churchgoer: “Bless me father for I have sinned.”
教会に行く人:私の罪をお許しください。
Priest: “Tell me what happened.”
神父:何があったのですか。
Churchgoer: “I stole a pencil from my office.”
教会に行く人:職場から鉛筆を盗みました。
Priest: “Say five Hail Marys, and return the pencil, and your sin will be forgiven.”
神父:ヘイル・マリーを5回言いなさい。そして鉛筆を返しなさい。あなたの罪は許されるであろう。
こういう感じの使い方で実際の文章は『アヴェ・マリア(Wikipedia)』をご覧ください。
ここから転じて、特にアメフトなどでやけくそぎみ、やぶれかぶれの祈るようなパスなどに使われることがあります。スポーツ系のスラング表現だといえます。
He threw a Hail Mary pass.
彼はヘイル・マリーなパスを投げた。
たぶん無理だとわかっているけど、奇跡を祈るような状況でのパスを指しています。