一説によると「run」は熟語やスラングなども含めて、最も多くの意味で使われている英単語といわれ、辞書によっては600以上の用法が掲載されています。もう1つの最も使われている単語の候補は「take」です。
基本的には「走る」の意味ですが、その動かす、動くイメージから「経営する、運行する、開催する」などかなり幅広い意味で使われています。
全部を紹介するのは無理なので、主に日本語で「走る」と表現されているものと比較しながら英語のrunを掘り下げてみたいと思います。
線路や配線、山脈が走る
カナダ人のスティーブに「道路や山脈のようなものにrunを使うのは日本人には違和感ないのか?」と質問されたことがあります。
このあたりは日本語でも「道路が走ってる、配線が走ってる」と表現するのでさほど違和感はなく、共通した概念になっています。
以下の例文も個々には「流れている・敷かれている」と適切な言葉はありますが走っていると考えても理解はできます。
The river runs through downtown Osaka.
その川は大阪の繁華街を走っている。
Train tracks run east to west.
電車の線路が東から西に走っている。
There are many highways running across the country.
多くの高速道路が国中を走っている。
A counter runs along the north wall of the kitchen.
カウンターがキッチンの北側の壁を走っている。
キッチンのカウンターなどは建築用語、配線などと同じ扱いで「走る」と表現できそうな感じもします。
広がっている、伸びている
この考え方の延長で、線路などがあるエリア内で広がっている、またはエリアを越えて広がっている(延長)の意味でも使われます。もっと単純に「存在している」と考えても良さそうですね。
The tracks of the Kintetsu Line now run to Kobe.
近鉄線の路線は、現在は神戸まで広がっている。
The path runs for eight kilometers.
その小道は8キロ続いている。
The highway runs east to west.
高速道路が東と西をつないでいる。
The river runs through the park.
その川は公園を通っている。
His driveway runs past a pond.
彼のドライブウェイは池のそばを通っている。
ドライブウェイは住宅などで、公道と車庫をつなぐ私道です。日本では土地の狭さから見かけませんが、アメリカの映画などではよく見かけることができます。
痛みが走る
日本語で「走る」と比喩的に表現できるものが、英語でも可能なのか確認してみました。
日本語の痛みが「走る」はそのまま英語でもいけるそうです。throughがついているので駆け抜けていく感じは日本語とも近いです。
Pain runs through my chest.
痛みが胸を走る。
衝撃が走る
またショックも走ることが可能です。
A shock ran through my body.
ショックが身体を走った。
福本伸行の麻雀マンガ『アカギ』の有名なシーンに「八木に電流走る」があります。
ヤクザの打ち手の矢木圭次が、まだ中学生の赤木しげるの麻雀の打ち筋を見て衝撃を受けた場面です。これは比喩的に衝撃を「電流」と表現しています。
ここで「八木に電流走る」と解説されます。後に赤木しげるは伝説の麻雀打ちとなりますが、その才能の片鱗を見ました。
Electric current runs through Yagi.
八木に電流走る。
コンセントを触って本当に電流が身体を走ったなら可能です。しかし「ビリビリする衝撃」という意味では成立しません。
ただ小説や詩的な表現としてならば、電流に限らず、喜び、悲しみ、稲妻、お母さん、羊、などなど、比喩としてはなんでもOKになってしまうそうです。
おつかいなどの走る
「ちょっとこれ持って、あの店まで走ってくれる?」のようにお使いのような意味も可能です。
Can you run this over to my brother’s house?
これを兄貴の家まで走ってくれる?
飲み会が終わって二次会に行こうとしたけど店が決まってない。新人や後輩などが店をみつけるために「走らせる」のも同じくOKでした。
Can you run by the restaurant and see if there are any tables?
店まで走って、席開いてるか見てきてくれる?
Can you do a run and see if any places are open?
走って店開いているか見てきてくれる?
筆などが「走る」
文章を書く仕事などで調子がいいときは筆が「走る」と表現します。
「歩く」に対しての相対的なスピード感を表しているのかと思いますが、これは英語では言わないそうです。
× My pen is running today.
それを言うならば以下のfireの表現が近いです。
My pen is on fire today.
「火をふく、火がつく」みたいな話なので、感覚的にはわかる範囲の表現かもしれません。
直訳できる単語の多さ
今後も日本語の「走る」が「run」に変換可能か気が付いた単語が出てくれば書き加えていきます。
第二言語習得論の観点からいえば、こういった日本語と英語の「直訳できる言葉の多さ」が語学習得の難易度の差や言語間の距離を生み出しているとされています。
例えば英語も日本語も「恋」は「落ちる」ものです。こういったイディオム、熟語、慣用句などがそのまま直訳できる言語同士は習得がしやすいといった話になります。