引退してしまった安室奈美恵さんの名曲で、結婚式でも広く歌われる『CAN YOU CELEBRATE?』は、英語の使い方にリリース当初から指摘があります。
いくつかのポイントにわけて問題点を整理しながら英語の学習に役立たせてみます。『Can you celebrate?』が決して間違っているわけではありません。
ここでは大きく「celebrate」の使い方やネイティブスピーカーにとってのニュアンスと、Can youの使い方について触れています。
この記事の目次!
CAN YOU CELEBRATE?とは
説明の必要もないと思いますが1997年のリリースで、安室奈美恵さんの代表曲としても知られています。結婚式でも広く歌われている定番のウエディングソングです。
作詞のTKこと小室哲哉さんは日ごろから「歌詞の英語は適当」と公言していたので、そもそも英語の歌詞がフィーリングで作られているような前提はあります。
英語としての正しさよりも音の響きを重視した作詞は小室哲哉さんの曲全般に見られ、たぶんその傾向はTM NETWORKのデビュー曲の『金曜日のライオン』ぐらいまでさかのぼれると思います。
celebrateの使い方 / 何を祝うのか?
celebrateは基本的には目的語(何を祝うのか?)をともなうことが圧倒的に多く、「celebrate 〇〇」の形になるので英語としては「他動詞」で使われることが多いです。
試しにイギリス人のダンにいきなり「Can you celebrate?」と質問してみました。すると「何を?」と言われました。
まず大きな問題としては、よほどの前後の文脈がないと「Can you celebrate?」単独では「何を祝うの?」という部分がよくわからない点があります。
したがってこの曲の歌詞を補足するならば「Can you celebrate me?」ぐらいを入れてもいいかもしれません。
日本語部分の歌詞は恋人同士の関係を歌っており、結婚式で広く使われているので、なんとなく「ウエディング」をイメージしますが、そういった周辺の情報がない状態で「Can you celebrate?」と言われても、何を祝えばいいのかわからない状況が生まれます。
celebrateはどのような祝い方なのか?
celebrateは「祝う」ですが、その祝い方については細かな決まりはなく、粛々とした式典からどんちゃん騒ぎ、浮かれた感じ、軽く乾杯までさまざま含まれてきます。
People don’t celebrate that holiday in this country.
この国では人々はあの祝日を祝わない。
She celebrated her new job with a bottle of wine.
彼女は新しい仕事をワインで祝った。
一般的にこのタイトルについて英語の点で指摘されるのは「Can you celebrate?はネイティブにとってはバカ騒ぎできますか? みたいな意味になる」といった話です。
その点については何も情報なしで「CAN YOU CELEBRATE?」のタイトルのみを聞いたら、スティーブもダンもパーティーソング的なものをイメージするといっていました。
以下はクール・アンド・ザ・ギャングのヒット曲で題名は名詞の『Celebration』です。「Can you celebrate?」のタイトルからはこういった曲が思い浮かんだそうです。
歌詞には「Celebrate!」「Let’s celebrate!」のようにみんなに呼びかける「祝え!」みたいな形が登場します。
必ずしも「celebrate = ドンチャン騒ぎ、バカ騒ぎ」にはなりませんが、情報がなければ歌のタイトルとしてはしっとりしたバラード曲ではなく、わりとこういったパーティーソング、陽気な曲をイメージさせる傾向は確かにあるのかもしれません。
これは日本語で考えても同じ感覚で「祝いの歌」「祝いますか?」みたいなタイトルの曲をまったく事前情報なしに想像すれば、お祭りっぽい明るい音楽を想像する人が多いと思います。なんとなくサザンオールスターズとかの曲にありそうな感じです。
Can youの使い方について
「Can you celebrate?」の問題は「Can you」のほうが大きいといえます。
Can youは以下のようにお願いや頼む時によく使われます。可能かどうかを聞いている感じです。
Can you lend me your car?
あなたの車を貸してもらえますか?
本来「お祝いする、祝う(celebrate)」といった行為は自然な感情から湧き上がってくるはずのものであって、できて当たり前のことです。それなのに「can」を使ってできるできないを問うのは、ちょっと変だという意見です。
例えるならば「悲しんでもらうことはできますか?」と似たような違和感のある表現です。できるできないを質問する前に自然と湧き上がって行動・感情に出ているはずのものが「celebrate」です。
Can you + celebrateで祝うことが可能かどうかを問う状況は、かなり限定されてきます。
I’m having a wedding. Can you come and celebrate with us?
結婚式があるんだ。来て一緒に祝ってもらえますか?
上の場合は「come」に主にかかっている感じですが「スケジュールを調整して来て祝ってくれることは可能ですか?」の意味であり、こういった状況なら可能かどうかを問う「Can you celebrate?」の組み合わせもあるかもしれません。
結局のところやっぱり自然発生する感情であって、他人に対してできるできないをCan youでストレートに問うことと非常に相性が悪い組み合わせです。それを言う相手が彼氏・彼女・結婚相手ならばなおさら、わざわざ可能かどうか聞く必要がない、聞くまでもないといった感じです。
Can’t youを使う
Can’t youのほうがまだ自然な感じといった意見でした。
野球やバスケの大会で優勝したけれど、なぜかみんなが祝っていない状況があったとします。
We won! Can’t you celebrate?
俺たち勝ったよ! 祝わないの?
We won! Can you celebrate?
俺たち勝ったよ! 祝うのはできる?
「Can you」で聞くとすごく率直にできるできないを問う雰囲気が出てきます。怒っている感じもして、暗に「祝え」と迫っている感じも出ます。
Can youはスケジュール調整や難しい技術のような本当に可能かどうかわからないことに使うのは自然で特に問題ありません。
しかし「祝う・泣く・笑う」のような人間ならできて当然の動作に「Can you」を使ってわざわざ可能かどうかを質問すると、皮肉や暗に迫っていたり、そこに裏の意味を感じてしまいがちです。
「Can’t you」だと少し柔らかい感じがして、素直に不思議に思っている感じ「え? なんでしないの?」といった雰囲気が出ます。
Can you celebrateを正しくはどういう?
結局のところ英語として見た場合に「Can you celebrate?」が英文として間違いなわけではありません。
ただし、小室哲哉さんが描いた状況や言いたかったことと合っていたかは不明です。そもそも何をどう言いたかったのか? がはっきりしないと、正しい英語が作れません。
また「祝ってくれますか?」と質問する状況があまり想像できない問題はすでに指摘したとおりです。何かおめでたいことを報告した時点で、「Can you celebrate?」と質問する前に、祝われているのが一般的です。相手が当事者である結婚相手やフィアンセなら、お互いを祝うのは当然であって質問するのがおかしいです。
この曲の歌詞が彼氏・彼女にわざわざ「祝ってくれますか?」と質問しないといけない状況を生み出しているならば、その状況がわからないと正しいニュアンスを持った英語が作れないです。ただ歌詞は詩なので、そういう解釈が曖昧なものなのかなと思ったりもします。