カタカナでは「レトリック(rhetoric)」と表記され、考え方としては物事を伝える際の言い回しを工夫することで、相手の感情に訴えかける技術・手法です。
計算された言葉遣い、言い回し、日本語では「修辞法」とも呼ばれます。古くは古代ギリシアあたりに起源があり、哲学者達の論争などで体系化されていきました。
カタカナでも使われますが、あらためて英語の視点からレトリックについて考えてみます。
この記事の目次!
レトリック(rhetoric)とは?
先に書いたように言い回しや表現の工夫のことですが、ここ最近で「レトリック」が問題になったのはアメリカ大統領選挙やイギリスのEU離脱問題のときです。
オックスフォード辞書は2016年を代表する言葉として「post-truth」をあげています。日本語にすると「真実の後、真実の向こう側」といった訳になります。
つまり大統領選やEU離脱問題では、真実が何であるかより、レトリック重視の言葉がどう伝わったか? に重きがおかれて、真実が軽視されていたといった意味です。
ドナルド・トランプがわかりやすい扇情的な言い回しで人々を煽り、人々は事実がどうであるかよりも、言葉に動かされてしまう。
こういった真実を越えた世界、真実が重視されてきた過去の時代からその次の時代に入っているのではないか? といった部分が2016年を代表する単語としての選出理由になっているようです。
Politicians often use rhetoric to influence people’s opinions.
(政治家はしばしば人々の考えに影響を与えるためにレトリックを使う)
I couldn’t understand his point through all that rhetoric.
(あのすべてのレトリックを通して、彼のポイントが理解できなかった)
ドナルド・トランプはわかりやすい言葉であおり気味に発言しますが、あれが意図的な修辞法なのか素の話し方なのかはよくわかりません。
修辞法にはさまざまな技術があって反対の意味を含んだ反語「誰がこんなの食うの?(誰も食べない)」や擬人法、比喩、体言止めなども分類されます。
rhetorical question(レトリカル・クエスチョン)
レトリカル・クエスチョンとは答えを求めていないような疑問を意味します。日本語では「修辞疑問文」といった説明がされます。
日本語でも反語と呼ばれるものが近く「それが何の役に立つというのか?!」といった場合、話者は「役に立たない」と伝えており、別に答えを求めていないケースがあります。
他にも「誰に口きいてんだ?」「なにさまのつもりだよ?」「まだ東京で消耗してるの?」など、答えを求めていない表現は自然に使っています。
これらはレトリック(修辞法)の一種と考えることができます。たまに修辞法とは気づかずに本気で答えてしまうケースも見かけます。
Why notの意味
日常でも知らずに使っているケースも多いので例を出すと”Who knows?” “Why not?” あたりがレトリカル・クエスチョンにあたります。
A: Do you want to go to the movies?
B: Sure, why not?
A:映画に行きたい?
B、もちろん。
「なぜ断る理由があるの?」「なぜ行かない理由があるのか?」→「もちろん行くよ」といった流れです。
“Who knows?” は直訳すると「誰が知っている?」ですが意味としては「わからないよ、知らないよ」です。
見た目は疑問文、疑問を問いかけていますが、実質は答えは求めていないタイプの質問で、こういう表現・言い回しが「レトリカル・クエスチョン」にあたります。
政治家の街頭演説などでも質問を問いかけているようで答は本人の中にあり人々の感情に訴えかけている意味が強いです。
アニメの話ですがガンダムのギレン・ザビが「諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだ!何故だ!」と言っていましたが、これもrhetorical questionです。
レトリカル・クエスチョンと付加疑問文
付加疑問文は英語では「tag questions」と呼ばれます。
You like it,don’t you?
It isn’t true,is it?
上のような表現は学校で習うと思います。意味としては「だよね?」「でしょ?」のような念押しに近い軽い疑問です。
この付加疑問文はときに答えを求めていないレトリカル・クエスチョンにもなりうるし、場合によっては本当に質問・確認している疑問文にもなります。
その見分け方は、会話の中でイントネーションが最後にあがれば(isn’t it?↑)、それは普通の付加疑問文で答え・同意を求めています。文章では最後に?が入ります。
A: It’s hot today, isn’t it?
(今日は暑い。そうだよね?)
B: Yes, the weather report said it is.
(ああ、天気予報でもそういってたよ)
一方で答えを求めていないレトリカル・クエスチョンの場合は(isn’t it↓)のようにフラットか下がります。文章では最後がピリオドです。
A: It’s hot today, isn’t it.
(今日は暑いよな…そうだ暑い…)
この場合は同意も求めていないし、独白に近く勝手に暑いのを本人が確信している感じを伝えているだけです。だから答える必要もありません。
参考までにレトリカル・クエスチョンのAを、レトリカルクエスチョンで返すこともできます。
B: Don’t I know it.
(まったくそのとおりだ)
Bも正確には「私がそう思っていないとでもいうのか?」といった疑問文になります。そこから転じて「あたりまえだ、そのとおりだ」みたいな言い回しになります。
クエスチョンマークを付けるか?
これは書き方のスタイルの問題で、レトリカルクエスチョンの場合には「?」をつけない書き方もあります。
しかし、この意見に同意して同じようにつけない人もいる反面、「?」をつける人もいるので、どちらが正しいとも言い切れません。
日本語でも「StudyNowを使わない理由なんてだろうか」と書いた場合に、最後の「?」をつけるかどうかは人によります。
参考までに実際にニュースに登場したレトリカルクエスチョンをご紹介します。ビル・ゲイツが子供たちが14歳になるまで携帯電話をもたせなかった話がありました。そして、14歳になった後もアップル製品を禁止しています。その理由についてゲイツが語った部分です。
Gates said about the Apple ban, “Of course they ask, but they get Windows technology. The wealth from our family came from Microsoft so why would we invest in a competitor.”
ゲイツはアップル製品の禁止について「もちろん、彼らは求めている。しかし、彼らはウインドウズの技術を手にしている。家族の富はマイクロソフトからきている。それなのに競合相手にお金を使うのだろうか」と語っている。
この最後の「why would we invest in a competitor」がレトリカルクエスチョンにあたり「競争相手に投資をするだろうか?」と疑問文の形になっていますが、実際にゲイツが伝えたいのは「競争相手に投資なんてするわけないよね」という意味です。
記事を書いたスティーブはレトリカルクエスチョンには「?」をつけない派なので、この英文でも最後にクエスチョンマークはありません。つける人もいると思います。
最後に『人を動かす(How to Win Friends and Influence People)』や『道は開ける(How to Stop Worrying and Start Living)』などの著作で知られるカーネギーの『話し方入門』をご紹介しておきます。