野球でピッチャーが特に短いイニングで大量失点することを「田中が2回7失点の大炎上をした」のように「炎上する」と日本語では表現されます。
ニュースでダルビッシュのワールドシリーズにおける炎上を扱った際に「flameout」という言葉が登場しました。
日米で「炎・火」に対する考え方の違いが感じられる面白い表現だったので取り上げてみます。
ダルビッシュの炎上
テキサス・レンジャーズから、ロサンゼルス・ドジャーズへシーズン途中でワールドシリーズ制覇の助っ人的に移籍したダルビッシュでしたが、残念ながらワールドシリーズでアストロズに打ち込まれました。
ニュースの本題はダルビッシュの投球時の癖をアストロズが把握していて、球種が漏れていたのではないかといった告発を扱ったものでした。
このニュースで炎上を意味する「flameout」という言葉が登場します。
After Darvish’s flameout during Games 3 and 7 of the World Series where he had a combined ERA of 21.6, some suspected he had been accidentally tipping his pitches.
ダルビッシュがワールドシリーズの第3と第7ゲームで合算の防御率が21.6と勢いを失った後で、何人かは彼がうっかりと自分の投球の情報を漏らしているのではないかと疑っていた。
この事件の詳細については記事の最後にまとめています。
flame out
このflameoutは炎という言葉を使っていますが意味としては火が消えて沈下することに対してoutが使われています。
名詞ではflameoutの1単語に、動詞ではflame outとなります。したがって上のニュースではダルビッシュの勢いが「消えてしまった、鎮火してしまった」の意味になります。
The firefighters put the fire out.
消防士は火を消した。
I put out my cigarette in the ashtray.
タバコを灰皿で消した。
このようにoutは火などを消すことに対して使います。また以下のように flameoutは名声や輝きなどの「消滅、破壊、魅力を失ったもの、挫折した人」として使います。
Michael Jordan never had a flameout in basketball.
マイケル・ジョーダンはバスケットボールの世界で魅力を決して失っていなかった。
日本語での野球における「炎上」は火事などが燃え上がって手が付けられない、誰にもどうすることもできない状態をイメージさせます。
一方の英語の炎は燃え上がる力強さの象徴のようなイメージです。それがout(消えた)といった使い方になるので日米で「炎」を使ってはいるものの真逆のイメージになっています。
go down in flames
go down in flamesは炎に包まれて墜落するといった表現で、こちらは「ひどい失墜をする」といった意味です。飛行機などが墜落するのは最悪ですが、さらに炎に包まれながら墜落すると、手のつけられない感じになります。
Maeda went down in flames during the sixth inning.
前田健太は6回に炎上して墜落した。
こちらの使い方だと野球の炎上の使い方に近くなります。日米で「炎」のどの部分をとらえるかで意味合いが違っている表現だといえます。
日本語でも同じですが、基本的には「炎・火」はポジティブにもネガティブにも受け止められるものであり、使い方次第でどっちにも使えます。
相手の打線を食い止めるクローザーやセットアッパーを「火消し」と呼んだりするので、考え方がまざりあって非常にややこしいです。
fiery
「火の、火のように赤い、激烈な、炎のような」といった意味の形容詞もあります。比喩的に炎のようなの意味でも使え、また実際の炎を描写する意味でも使えます。
There was a fiery argument outside.
外で(火のように)激しい口論があった。
There was a fiery explosion at the factory.
(火を伴った)爆発が工場であった。
She has fiery red hair.
彼女は真っ赤な髪だ。
ネットの炎上については以下の記事にまとめています。これも炎に関連しているようで、文字通り翻訳すると無理のある言葉だといえます。
ダルビッシュの炎上事件
2017年のシーズン途中でテキサス・レンジャーズから、ロサンゼルス・ドジャーズに移籍したダルビッシュは、ドジャーズにとってはワールドシリーズ制覇のために獲得したような助っ人的な存在でした。
シーズン後半、ポストシーズンと決して悪くなかったダルビッシュですが、肝心のワールドシリーズで炎上したことでロサンゼルスのファンから辛辣な評価を受けていました。
第3戦で2回途中4失点、第7戦は2回途中5失点、空振りを奪うことに定評があったダルビッシュのスライダーが打たれまくった事実があります。
その背後に実はダルビッシュの球種が読まれているのではないか? といった噂がありました。これは元ヤンキースのアレックス・ロドリゲスなどもツイッターで発言しています。
By reading @astros body language in the box and their approach against Darvish, perhaps he was tipping pitches. Astros' hitters capitalized.
— Alex Rodriguez (@AROD) 2017年11月2日
アストロズの選手のバッターボックスでのボディランゲージ、彼らのダルビッシュへのアプローチを見ると、球種を漏らしているのではないかと言っています。
ダルビッシュはキャッチャーとサインのやり取りをしている時に、ボールを身体の真横にぶらさげるように持ちます。そこから握りなおすか、握りなおさないかで球種が絞れたといったことを匿名の選手が伝えています。
これは雑誌「スポーツイラストレイティッド」に掲載されたものですが、記事でも詳細は語られていません。
Winter Meetings Notebook: Stanton’s Pursuit of ‘Crazy Numbers,’ Darvish Tipping Pitches in World Series Starts and More(スポーツイラストレイティッド)
下の動画はワールドシリーズ第7戦のフル動画です。
主にセットポジションの時にサインが決まり、グラブに入れる際にボールを握りなおすかどうかが球種判別のポイントになっているようです。
カメラワークの関係で常にダルビッシュの動きを確認できるわけではありませんが、ずっと見ているとたびたび該当のシーンが映ります。
実際の映像を見ると、素人にはわかるようなわからないような感じです。そこまではっきりしたものではありませんが、プロの目には明確に見えているのかもしれません。
ピッチャーに関連して「リリーフ(relief)」の使い方は以下の記事にまとめています。ヒット、ノック、ストライクなど野球用語になっていますが、野球とは関係ない普通の動詞でよく使われます。