2016年6月に追手門学院大学主催のやまもといちろう氏を招いた無料セミナーが大阪梅田であったので行ってきました。
簡単にですが内容をレポートしてみます。
やまもといちろうとは?
古くからブロガー「切込隊長」のハンドルネームて有名ですが、本業は投資家としての肩書きがあります。
1973年生まれ、慶應義塾大学卒、データ研究などを専門にされ東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員、東北楽天イーグルス育成・故障データアドバイザーなども兼任されています。
フジテレビの『とくダネ!』のコメンテイターなどもされているので、テレビでも見かけることがあります。『真夜中のニャーゴ』などにも出演されています。
ブロガー・ライターとしては企業の不正や欺瞞的な取引を告発するような記事も多く、かなりきわどい内容と高いエンターテイメント性が特徴でしょうか。炎上させる側の人ともいえます。
この講演会があった頃はソシャゲのガチャ問題、パチンコの釘問題、AppBankの問題などが目立っていました。
【修正あり】AppBank社、元役員の横領金の流出先に「暴力団関係者」の疑い 調査報告書に記述せず
爆裂! 広島県&市サッカースタジアム建設の変その1「その土壌汚染は大丈夫か」
講演会ではスライドにあわせて語っていく形で2時間ぐらい話されていたので要約してみます。
配布されたチラシはをPDFがあるので裏面も含めてブラウザで開き直すと文字の拡大ができます。
いろいろご縁があって、中川淳一郎先生ともに個人的なファンでもあります。
炎上の定義
やまもとさんは炎上の定義を「ひとつの話題、事象、人物などに対して不特定多数のインターネットユーザーが反対、批評、罵倒などネガティブなコメントを書き連ねてバッシングが殺到すること」とスライドで紹介しています。
数字的な定義でいえばGoogle、Yahoo、Facebook、Twitterなどで視認できる言及数が約10000を超えるときに「まあまあ炎上したね」と認知されるそうです。
そもそもネットで書き込みをする人が全体のネットユーザーの7,8%ぐらいしかいない点が指摘されています。つまり大半の人は書き込みや発言をネットでしません。
ネットで見かける意見、それははてブだったり、ツイッターだったりしますが、明らかに全体の総意ではなく、キチガイの意見だとも言っていました。
この公演の中で幾度となく登場する「キチガイ」が重要なキーワードになっています。
ネットで見かける意見は何か強く言いたい人々の意見であって、普通の人の意見とは少し違うといった点は実感としてもよくわかりますね。
炎上の例、炎上ではない例
炎上とはいわないケースとして井上晴美さんのブログが出ていました。
井上晴美さんは熊本地震のときに、ブログに震災の現状を投稿したことでバッシングされました。これも一部メディアで「炎上」と報道されています。
しかし、たいした批判コメント数ではなく1400程度だったので、炎上とは言いがたいものです。
被災の井上晴美さん、「愚痴りたいのはお前だけではない」とネットで中傷されブログ停止へ(産経ニュース)
これに関しては、釣り気味に「炎上」と報道してしまうネット系メディアの問題点も指摘されています。
一方でカロリーが高い、燃えやすい人としてワタミの渡邉美樹さんの名前があがりました。
何か余計なことを言うたびに24000件の平均文句が殺到する炎上界のリーディングヒッターです。
炎上のパターンとしては「燃えやすい人が燃える」「わかりやすい話が燃える」「政治的に正しくない事項が燃える」「DQNが燃える」です。
全体的には「ひとこと言いたくなるもの」が炎上しやすいトピックスではあるようです。
4:8の法則、サイバーカスケード
炎上のネタの中でも、教育委員会ネタ、政治ネタ、ネットウォッチネタなどは、特定クラスターが燃えても社会全体がその炎上に関心があるとは限らないタイプのものです。
その他には迫害されているように見える問題なども、燃え上がりやすい話題です。
マタニティーマークをつけていた人が罵声を浴びせられた話などネットで広まりましたが、これも事実があったのか確認不可能です。
事実かどうかは関係なくなってしまい、過剰反応につながっていきます。こういうのは「ひとこと言いたくなる系」の炎上です。
4対8の法則があるようで、どんな問題でも右派4%、左派8%ぐらいの割合で絶対に存在しており、1割ぐらいが炎上などに参加してきます。
例えばネットにおける「韓国」の扱いなども、右派は4%、左派が8%で、残りは別に韓国にさほど興味がない普通の人々だという話です。
サイバーカスケード(Wikipedia)の話題などもあって、ネットでは同じ考えや感想を持つ者同士を結びつけることが極めて簡単で排他的になる傾向があります。
自分と同じ考えの人が集まってしまうネットでは、自分の意見がマジョリティーであるかのような錯覚に陥りやすくなっています。
広がる炎上、広がらない炎上
ネットのごく限定的な話題から、全国の一般層にまで認知された問題としては、この頃には「保育園落ちた日本死ね」があがっていました。
ブログ記事「保育園落ちた日本死ね」は日本人の4割ぐらいが問題を認識していた、知っていたようです。
保育園の問題は本来はネットの狭い問題で終わるようなジャンルでしたが、政治家も取り上げたため広く認知される結果になりました。
一方で作家の岡田斗司夫さんの愛人問題はネットでは話題になったものの、社会との接点がなかったため一般にまでは広がりませんでした。
ネットで話題になることは、とても狭い範囲のことに過ぎませんが、それを多くの人が関心や接点を持つ話題に切り口を変えることが、拡散力につながります。
スライドでは「炎上は基本的にはすべてがリアクション芸、オルタナティブである。本当に刺さる炎上はマーケティングの優劣につきる」と説明されていました。
鎮火させる方法
炎上事件そのものは68時間から70時間前後で一巡し鎮火していきます。昔は110時間ぐらいだったそうですが、年々短くなる傾向があるようです。
自分が炎上した場合などに鎮火させる方法も紹介されています。
・最初の70時間ぐらいの間に燃料を与えないこと
・保留せずに頭を下げて謝罪している状態を作ること
・ブログなどの場合は記事を削除すること
感覚的にわかりますが、人間は同じことに興味を持ち続けるのが難しいようです。
謝るのが心情的に納得いかない炎上もありますが、その場合は事件への直接の謝罪ではなく「周囲をお騒がせして申し訳ありませんでした…」といったうまい切り口で謝罪状態を作ることが大事です。
電凸(電話で問い合わせ)された場合の対応も興味深く、その場合は「状況を把握してご連絡しますのでお名前とご連絡先を」と切りだすのが有効ではあるようです。
そもそも電話で文句を言う人達は、匿名であることを望み、自分が何者であるかを知られるのが嫌な点があげられています。勉強になりますね。
継続して燃え続ける条件
逆にいえば、鎮火させずに燃え続けさせるためには燃料を投下することが必要で、このあたりは週刊文春などがうまく、鎮火しそうになると「続報」が投入されます。
燃え続ける条件としては「燃料があること」「粘着がいること」だそうです。
特にコンテクストを無視して、安定してコメントをしてくれる粘着は大事だといっていました。
英語で「炎上」をなんと表現するかについては、記事にまとめているのであわせてご覧ください。
まとめ
炎上のカロリーは話題によりますし、火の付け方についてはマーケティングの問題によります。
やまもとさんがクビをつっこむケースは片方が困っている場合などが入りやすいそうで、逆に裁判中・係争中の問題は待つしかないので面白みがないともいっています。
電話問い合わせもそうですが、基本的にそういう踏み込んだことをするのはキチガイだと言っていました。
そういったキチガイへの対抗策として、自分が相手以上のキチガイになるといった手法も推薦されていました。非常にレベルが高い技です。
講演会はその後も続き、やまもとさん自身の裁判の経歴や面白い話が聞けました。
NHKと朝日の記者を交えてのディスカッションイベントもこの後にあったのですが、このパートの感想としてはイマイチです。ちょっと討論するには物足りないように感じました。
最後には、やまもとさん自身も含めてすべての分野に対応できる人はおらず、自分がプロフェッショナルでない部分があることを知る必要があるとも言っていました。
大学教授の肩書きがあっても専門分野以外はド素人のケースも多く、わからない部分については断言しないことや押し付けないことを勧めています。
すべての分野にリテラシーを高めて、視野を大きく持とうと締めくくっています。