オバマ広島演説と翻訳について

オバマ大統領

オバマ大統領が行った歴史的な演説は、今後は教科書に掲載され、英語の教材としてもスティーブ・ジョブスのスタンフォード大学での演説のように数多く取り上げられることが予想できました。

自分自身は職業翻訳やプロの翻訳家になったつもりはありませんが、日々アプリで翻訳に取り組んでいると、誰かの翻訳を見る前にこの歴史的な演説を自分なりに訳してみたくなりました。

アメリカが政府の威信をかけて言葉を何度も推敲したであろう英文を、自分が知るかぎりの美しい日本語に置き換える作業と向かい合ってみたくなるような衝動に駆られたのです。

大統領のすべての外交演説を書く男、ベン・ローズ――文学青年はいかにしてオバマ側近のトップにのぼりつめたのか(クーリエ・ジャポン)

できれば早くニュースを伝えようと思っていましたが、日々の作業に追われなかなか完成できないまま時間が過ぎてしまいました。

ちょっと重すぎて気が滅入ったのが正直なところですが、冒頭の部分だけ自分なりの日本語で翻訳をしてみたものを掲載しておきます。

翻訳とはなにか?

翻訳は言葉の近似値であるといった意見に賛成で、おそらくどこまでいっても正解がないのだと思います。裏を返せば「間違い」もないのではないかとも感じます。

一般的に誤訳という概念があるのは理解できますが、突き詰めると精度に対しての高い低いの問題でしかないようにも思うのです。

あるいは翻訳者という媒介を通している以上は、もう別の文章だと思えます。

vulnerableをどう訳すか?

ニュース文に「vulnerable」という単語が登場しました。

辞書で調べれば「弱い、傷つきやすい、脆弱な、攻撃されやすい、値動きの激しい」などの意味があります。

アメリカ文学の名作といわれ何度か映画化もされているフィツジェラルドの『The Great Gatsby』の有名な書き出しにも「vulnerable」が登場しています。

In my younger and more vulnerable years my father gave me some advice that I’ve been turning over in my mind ever since.(The Great Gatsby / F Scott Fitzgerald)

非常に有名な作品なので多くの人に翻訳されていますが、読み比べてみると「vulnerable」をどうとらえるかは面白いところです。

野崎孝訳
ぼくがまだ年若く、いまよりもっと傷つきやすい心を持っていた時分に、父がある忠告を与えてくれたけれど、爾来ぼくは、その忠告を、心の中でくりかえし反芻してきた。

村上春樹訳
僕がまだ年若く、心に傷を負いやすかったころ、父親がひとつ忠告を与えてくれた。その言葉について僕は、ことあるごとに考えをめぐらせてきた。

小川高義訳
まだ大人になりきれなかった私が父に言われて、ずっと心の中で思い返していることがある。

個人的には小川高善訳は自分ですることはないと思いますが、読みやすい文章に置き換えるとなれば、こういう選択もあるのかなとは感じます。

野崎孝訳は年代的に少し時代にそぐわない言葉使いはあるものの、英語の文体やリズムにもっとも近い感じがします。

村上春樹の翻訳に対する感覚は本が1冊でています。

翻訳を考える時に頭をよぎるのは村上龍の『イン ザ・ミソスープ (幻冬舎文庫)』の書き出しの部分です。

おれの名前はケンジ。わたしの名前はケンジと申します。ぼくはケンジ。あたしケンジっていうのよ。日本語にはいろいろ言い方はあるがそれは何のためなんだろうな、と思いながら、おれはそのアメリカ人に、マイネーム イズ ケンジ と言った。(村上龍/イン・ザ・ミソスープより)

英語と日本語の翻訳の絶妙な感じをうまく表現した文章ではないでしょうか。

translate(翻訳)とinterpret(通訳)の違いついてまとめた記事もあるのであわせてご覧ください。

オバマ大統領の広島スピーチ

スピーチの全文はニューヨークタイムズに掲載があります。

Text of President Obama’s Speech in Hiroshima, Japan(The New York Times)

日本語訳はハフィントンポストに掲載があります。

オバマ大統領の広島スピーチ全文 「核保有国は、恐怖の論理から逃れるべきだ」()

スピーチは2:55~からはじまります。

冒頭の部分だけ自分なりに訳してみました。

オバマ大統領の演説(書きかけ)

71 years ago, on a bright cloudless morning, death fell from the sky and the world was changed. A flash of light and a wall of fire destroyed a city and demonstrated that mankind possessed the means to destroy itself.
(71年前、雲のない晴れた朝に、死が空から舞い降り、そしてこの世界が変わりました。閃光と炎の壁が街を破壊し、人類は自らをも滅ぼす手段を所持していることを見せつけたのです)

Why do we come to this place, to Hiroshima? We come to ponder a terrible force unleashed in the not so distant past. We come to mourn the dead, including over 100,000 Japanese men, women and children, thousands of Koreans and a dozen Americans held prisoner.
(なぜ私たちはこの地、広島へと来たのか? 私たちは決して遠くはない過去において抑制が効かなくなった恐ろしい力について深く考えるために来たのです。私たちは死者を追悼するために来たのです。10万人を越える日本人の男性、女性、子供たち、数千もの朝鮮の人々、多くの捕虜となったアメリカ人のために)

Their souls speak to us.
(彼らの魂が私たちに語りかけるのです)

They ask us to look inward to take stock of who we are and what we might become.
(彼らが私たちにこう頼んでいるのです。我々が誰であり、何者になれるのか、その内なるものを深く考えてほしいと)

またいつか時間を見つけて続きを書いてみたいと思います。他の人の訳文をまだ読む気になれないので内容はまだよく知りません。

   


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