どれも日本語にすると「豊かである、富む」といった訳が成立しますが、それぞれ指すものが微妙に異なります。
物質的な豊かさなのか、見えない概念を指しているのか、またはお金の話をしているのかといった意味が異なります。
これらの違いを使い方の例文付きで整理してみました。
かなり長くなってしまいましたが、オーストラリア人のカール、カナダ人のスティーブにヒアリングを行い、それぞれの言葉をまとめています。
この記事の目次
rich
カタカナの「リッチ」はお金持ちを指すケースが多いですが、英語ではもう少し幅広い意味で、何かが豊富なことを全般に表せる表現です。
料理の味が濃厚なこと、色彩が豊かなこと、品ぞろえが豊富なこと、お金持ちであることなど、広い範囲をさせて便利なぶんだけ、文脈をはっきりさせないと意味が伝わらない、誤解されるケースもあります。
This cake is rich in flavor.
このケーキは濃厚な味がする。
The painting uses rich colors.
その絵は色彩が豊かだ。
Japan has a rich history.
日本は豊かな歴史を持っている。
Australia is rich in natural resources.
オーストラリアは天然資源が豊かだ。
上の例文を見ても、味が濃い、色彩が豊かなことは量の話をしていません。しかし、豊かな歴史とは歴史的な出来事が多かったり、天然資源でいえば量が多いことを意味するため、量の話をしています。
したがって以下のような書き方をされると意味が混乱します。
Fruits are rich in the forest.
(味の話なのか? 量の話なのか?)
この森の中はフルーツが豊富だといった意味なのか、この森の中のフルーツは味が濃厚だといいたいのか、はっきりしない文章になります。
特に食べ物の話をするときには、味の意味でも成立する可能性が高いので、より文脈や言い方に注意する必要があります。
また特に文脈なしでカジュアルに日常会話で言えば、カタカナと同じように「お金持ち」の意味でとられます。
He’s rich.
He is a rich man.
彼は金持ちだ。
しかし、以下のような表現も可能です。必ずしもお金の話だけではない点には注意が必要です。
He doesn’t have a lot of money, but he is rich in spirit.
彼は多くのお金を持っていないが、気持ちは豊かだ。
abundant
abundantは「豊かである」と考えるよりも「数が多い、数が充実している」と考えたほうが混乱しないと思います。
発音は【əbʌ́ndənt】なので【アバンダント】ぐらいでしょうか。見捨てる、放棄するのabandonとは別の言葉です。
abundantは量が豊富なことをいっているのでmanyやa lot ofで置き換えるとわかりやすいです。
There is abundant gold in the country.
その国には豊富な(数の多い)金がある。
Nintendo has an abundant roster of characters.
任天堂は豊富なキャラクターの名簿を持っている。
rosterは登録選手名簿、登録名簿みたいな考え方で、任天堂はマリオ、ゼルダ、ポケモンとキャラの数が多いといった意味です。
I enjoyed the abundant fruits of the forest.
私は森の豊富なフルーツを楽しんだ。
The soil in this area is abundant.
その地域の土壌は多い。
上の例文はすべて数や量の多さを指しており、その意味で「豊かだ、豊富だ」といっています。
以下のような使い方には注意が必要です。
The Yankees roster is abundant.
(登録選手の数はどのチームも同じため)
上の使い方だとオールスター級の選手がそろって人材が豊富だといった意味にはなりません。登録選手数は規定で決まっているので、ヤンキースだけ多く登録できるわけではありません。
He is abundant.
(意味がわからない)
数が多いことを指す言葉なので意味がよくわかりません。以下のように書き直すことは可能ですが、この表現をする理由がありません。
He is abundant in money.
彼はお金に豊かだ。
文章の意味は成立していますが、普通にrich等を使えばいい話であまり一般的な表現ではありません。
richとabundantの違い
richにはさまざまな意味があるため、簡単に置き換えてしまうと、意味が異なってしまうケースがあります。
I enjoyed the abundant fruits of the forest.
私は森の豊富なフルーツを楽しんだ。
I enjoyed the rich fruits of the forest.
私は森の濃厚なフルーツを楽しんだ。
The soil in this area is abundant.
この地域の土壌は多い。
The soil in this area is rich in minerals.
この地域の土壌はミネラルが豊富だ。
このようにrichの意味は広く、食べ物などに関連した言葉に結び付くと非常に混乱しやすい文章になります。
限定用法と叙述用法
少しややこしいですが、abundantのような形容詞は2つの使い方があります。
名詞の前に置いて「abundant gold(豊富な金)」「abundant fruits(豊富なフルーツ)」とするのが限定用法(attributive use)と呼ばれる使い方です。
abundantをこの使い方で用いる分には、普通に「豊富な〇〇」といった意味になるので、特に大きな問題もありません。
I have abundant experience in baseball.
私は豊富な野球経験がある。
しかし、「〇〇 is abundant」の形になる叙述用法(predicative use)で用いる場合には、自然な表現を求めると単純にはいかないネイティブスピーカーの感覚があります。
△ My baseball experience is abundant.
(間違いとはいわないものの奇妙な表現)
すべてのabundantを使った叙述用法が奇妙になるわけではありませんが、指している内容によっては自然さに欠けた英語表現になります。
以下はどれも「この森はフルーツが豊かだ」を意味し、文法上は特に間違いではありませんが、表現の自然さの点では違いがでます。
〇 The forest is rich in fruits.
△ The forest is abundant in fruits.
〇 Fruits are abundant in the forest.
▲ Fruits are rich in the forest.
(これは意味が混乱します。味?量?)
もう1つ例文を書きます。すべてネイティブスピーカーに判定してもらいました。「このお店の品ぞろえは豊かだ」です。
△ The store’s selection is abundant.
〇 The store has an abundant selection of movies.
△ The store’s selection is rich.
〇 The store has a rich selection of movies.
決して間違いではないんですが、無難に行きたい方は叙述用法での使用を避けてもいいと思います。
be well off
会話表現でもwell offがお金持ちの意味でよく使われますが、意味としては「豊かな暮らしをしている、満足した生活をしている、いい状態にある」ぐらいなので、必ずしもお金持ちであるとは限りません。しかし、お金持ちを意味している可能性も高いです。comfortable(満足している)ぐらいの意味が近いです。
また基本的には人間に対して使う表現であり、味が濃厚なことや資源が豊富なことには用いられません。
He is very well off.
彼はかなりいい暮らしをしている。
文脈なしで上のように書くと、おそらく「彼はとてもお金持ちだ、裕福だ」ぐらいの意味にとられます。
He became well off after his business took off.
ビジネスがうまくいったあとで、彼は裕福になった。
上のような例文でもおそらく、お金持ちや金銭的に裕福ないい暮らしをしているといった意味で普通は受け止めます。しかし、次の例文ぐらいになると少し幅がでます。
The employees are more well off without their old boss.
従業員たちは古い上司がいなくて、より良い状態だ。
この場合には給料があがって従業員たちがお金持ちになった可能性はもちろん考えられますが、どちらかといえばうるさい上司がいなくて満足している、いい状態だぐらいの意味です。
well offがなぜ裕福な暮らしになるのかははっきりしません。ネットには様々な意見がありますが、どれも理屈としては信頼にたるとは思えないし、ネイティブスピーカーに確認しても非常に感覚的なものでした。
wealthy
wealthyは明確に金銭的なもの、物質的な資産、お金によった表現です。場合によってはrichとイコールの意味になります。
発音は【wélθi】なので【ウェルスィ】あたりです。
He is a wealthy man.
=He is a rich man.
彼はお金持ちだ。
Wealthy people have to pay more tax.
お金持ちの人々はより税金を払わないといけない。
Wealthy countries are encouraged to provide financial aid to poorer countries.
お金持ちの国は経済的な支援をより貧しい国にすることが推奨される。
言葉の持つ雰囲気とトピックスとの相性の問題でもあり、税金・ビジネス・国々などの経済や金融の話題に特によく使われます。
〇 We live in a rich country.
◎ We live in a wealthy country.
我々は豊かな国に住んでいる。
どちらも決して間違いではありませんが、この場合は状況にもよりますがwealthyがベターな英文です。
millionaire / billionaire
日本語の「億万長者」「百万長者」は元々は外国語(フランス語)の訳語らしく、使われ始めたのが戦前ぐらいだという説があります。
英語でミリオネアは100万ドル(約1億円)で金持ちですが、日本円で「百万長者」といわれると100万円がそこまででかい顔できるかといえばそうでもありません。
文字通りmillionaireが100万ドル以上、billionaireが10億ドル(約1000億円)以上の資産のある人を指します。
「9億ドルはどっち?」となりますが言葉の理屈として「millionaire」になります。
affluent
これもwealthyに近く、多くのものを所有しているニュアンスが少し出ますが、基本的には「お金持ち」の意味です。
発音は【ǽfluənt】なので【アフルエント】です。
言葉の頻度としてお金持ちを表すならばrich > wealthy > affluentで用いられる回数が少なくなっていきます。
また相性の良い分野としてcommunity(コミュニティ)neighborhood(近所) suburb(郊外)といった人が住む地域、人々との関連で登場する言葉です。
She grew up in an affluent suburb.
彼女は裕福な郊外で育った。
The school is regarded one of the most affluent in the area.
その学校はその地域で最も裕福な学校の1つだとみなされている。
affluenza
2013年に飲酒運転による過失致死罪で4人の犠牲者が出た事故をお金持ちの少年、18歳のイーサン・カウチが引き起こしました。
しかし弁護側は、金持ちすぎることが彼を判断のつかない人間に育ててしまい、両親が悪い、金持ち過ぎたことが悪い、これは病気の一種であって刑務所ではなく、治療施設に送るべきだというものでした。
彼はaffluenzaだと診断されました。半分、造語のようなものでaffluence(豊かさ、富) + influenza(インフルエンザ)を組み合わせた言葉です。
要するに金持ちすぎることで善悪の判断や常識が身につかなくなってしまう状態のことです。
さすがにジョークとも思える弁護側の主張ですが、実際に認められてしまったことで、この事件がアメリカの一般市民の間でも悪名高いものとして有名になりました。結果、刑務所に行かずに保護観察処分になっています。